アスクル物流センター火災で古紙回収業者に約51億円の賠償命令
2023/05/02
ニュース
はじめに
オフィス向けの事務用品を中心に通信販売を行うアスクル株式会社。その物流センターで2017年に火災が発生しました。アスクル側は、火災の原因は、当時出入りしていた古紙回収業者、株式会社宮崎(愛知県清須市)の従業員による不適切なフォークリフトの使用にあると主張。2020年8月6日、約101億円の損害賠償を求め、東京地方裁判所に提訴していました。4月26日、東京地裁は、株式会社宮崎側の過失を認定、約51億円の損害賠償を命じました。
火災の経緯
問題となった倉庫火災は、2017年2月16日の午前9時ごろに出火。そこから鎮火まで2週間近くを要する非常に大規模な火災となりました。出火したのはアスクルの倉庫「ASKUL Logi PARK 首都圏」で、報道などによりますと、当時、鉄骨3階建ての建物には窓などの開口部が少なかったため、倉庫内が200度になるなど非常に高温になっていたということです。そのため、壁に重機で穴を開けて注水するなど、消火活動が24時間体制で続いたといいます。
焼失面積は約4万5千平方メートルに上り、倉庫内にいた男性従業員2人が煙を吸い軽傷を負いました。また、近隣住人に一時、避難勧告が出され、アスクルは希望者にホテルを手配するなどの対応を行うとHP上で掲示していました。
また、事業にも影響が出ており、ASKUL Logi PARK 首都圏から出荷する配送エリアでは注文受付を一時停止したり、再開後も通常の配送予定日に1日~2日追加する対応が取られていました。
賠償金は51億円に
その後、消防による調査の結果、火災の原因がフォークリフトの不適切な使用にあったと判明。当時、倉庫内では、株式会社宮崎の従業員がフォークリフトを使用した作業を行っていました。
株式会社宮崎は、愛知県清須市に本社を置く、古紙回収・リサイクル事業者です。アスクルと宮崎は、段ボールなどの再生資源に係る継続的売買契約を締結しており、当日も、火災のあった倉庫の端材置場で、宮崎の従業員が再生資源の引渡しなどの作業を行なっていました。
その際、宮崎の従業員は段ボールが1.5~3メートル積み上がった部屋で、作業スペースを確保しようとフォークリフトの前進・後退を反復。段ボールなどがフォークリフトのエンジン部分に入り込み、高温の排気管に触れて着火したということです。
アスクルは、消防が作成した火災原因判定書を確認後、2019年4月から宮崎と複数回面談を実施。火災でアスクルに生じた損害や火災原因を説明した上で、損害賠償などについて協議を重ねたといいます。しかし、合意には至らず、アスクルは、2020年8月6日、宮崎に対し101億591万6,808円の損害賠償およびその遅延損害金の支払いを求めて東京地方裁判所に提訴しました。
宮崎側は、「段ボール混入による着火は予見できなかった」旨を主張しましたが、東京地裁は、フォークリフトの説明書に「排気管付近に燃えやすいものがあれば火災の恐れがある」と書かれていたことなどを指摘。宮崎の従業員に着火の予見可能性があったと認定しました。
一方で、アスクルの従業員が火災報知器の誤作動と誤解してスイッチを切った点をアスクル側の過失と認定。全損害額を約125億円と算定したうえで、2割を過失相殺した約100億円の賠償責任を宮崎側が負うと判断しました。
最終的に、アスクルは、保険金として既に49億円を受領していたことから、これを差し引いた約51億円の賠償が宮崎に命じられています。
失火責任法の規定と適用範囲
火災による損害賠償については、失火責任法上、「民法第709条の規定は失火の場合には之を適用せず。但し、失火者に重大なる過失ありたるときはこの限りにあらず」という規定があり、失火者に重過失がある場合のみ不法行為による損害賠償責任を認める形になっています。
【失火責任法上の“重過失”と判断された事例】
(1)鋳物製造工場にて、作業後に、段ボール等の付近に高温の鋳型を放置して、特段の監視をすることなく居室で休んだ結果、失火に繋がったケース
(2)工場にてウレタン等の可燃性の断熱材が付着したH形鋼をアセチレン切断機で切断した際、目視が容易な断熱材を十分に除去することなく溶断作業をした結果、失火に繋がったケース
(3)アセチレンガスを用いた切断を業とする者が、周囲に可燃物がある状態で切断作業を行い火災を発生させたケース
(4)印刷業者が、業務上使用していたガソリンを栓をしていない瓶に入れて燃焼中の石油ストーブ付近の床上に置いていたところ、ガソリン入りの瓶が倒れて火災を発生させたケース
一方で、債務不履行責任に対しては、同法の規定の効果は及ばないとされています。
今回の判決に関する詳細はいまだ公表されていませんが、おそらく、重過失が求められる不法行為責任ではなく、アスクル・宮崎間の契約に基づく債務不履行責任を認めたものと考えられます。