東京都 ごみ焼却炉組合で官製談合「容認」の判決
2020/03/10
ニュース
昨年9月27日に東京地裁で「ごみの住民訴訟で官製談合」を容認する判決が下され、これまでの自治体ルールを破棄する内容を含んでいた。行政実務を知る被告側が主張できないような非常識な見解を裁判長が示し、被告がそれを容認する結果となり、司法が官製談合をチェックせず隠ぺいする実態が明らかになった。
ごみの中間処理を行う一部事務組合、柳泉園組合(東久留米市、西東京市、清瀬市で構成。所在地は東久留米市)は、耐用年数30年の焼却炉を建設からわずか15年で、延命化の必要性すら確かめずに大規模改修工事の計画を立て、現在の焼却炉を建設したメーカーの関連業者に改修工事を委託。本件訴訟は、この長期包括契約の中止を求めた住民訴訟で、訴訟を進めるうちに、実質随意契約(官製談合)の実態が明らかになった。裁判の過程では裁判長が3人も交代、最終的に鎌野真敬裁判長は非常識な見解の下で住民側を敗訴とし、官製談合を容認。判決において、裁判官が自治体における行政実務の基本ルールを知らず、無頓着であることが明らかになった。
この判決は柳泉園組合に多額の無駄な出費を行わせるだけでなく、今後この判決が判例となれば、自治体におけるごみ処理や施設建設、会計処理などのルールは破壊されることになる。原告団長の阿部洋二氏は「あまりに非常識で、この判決自体を高裁で問い直したい」とし、原告の一人である森輝雄西東京市議は「司法試験の前に、他人の話の読解力を問うことが必要では」と語る。原告団は即日控訴を決め、12月末には控訴理由書を提出。3月以降に控訴審が始まる予定。
<本件訴訟で問題になった官制談合>
この裁判の最大の論点は、入札は一般競争入札で行われたが、実質的には随意契約であり、契約先はあらかじめ決まっている官製談合が行われたのではないかという点。大規模改修工事の必要性や計画、契約内容を明らかにして議会の審議に掛けるという一連の手続きにおいて、瑕疵・欠陥がなかったのかという点も重視された。
焼却炉の建設は建設業法上の建設工事にあたり、委託契約ではなく請負契約の形態を取る必要性がある。委託契約の場合は人員の手配などのみだが、請負契約ならば発注元である行政側が設計図書や仕様書を用意し、希望する工事内容を受注企業に事前表明が必須とされている。その過程を無視して受注企業任せにしてしまう行為は違法。
本件訴訟で原告である住民が中止を求めている長期契約は、15年間に毎年約10億円も支出するという内容だが、税金を分担する柳泉組合の構成市の市民には一切説明は無し。さらに地方自治法、建設業法、廃棄物処理法、不当競争防止法などに抵触しているほか、柳泉園組合の条例にも違反。契約が履行されれば税金の無駄遣いで巨額の損失を受けるとして、柳泉園組合の構成3市の住民らが住民監査請求を行い、同組合管理者の並木克己氏を相手取り訴えを起こしていた。
柳泉園組合は当初、本件契約を長期包括委託契約であり、同組合がこれまで行ってきた事業のほとんどすべてを包括的に、かつ15年の長期にわたって民間委託すると説明。本来なら約200億円の事業が2割安くなり、150億円あまりで済むという。議員もそのように市民に説明。ところが契約が開始後も柳泉園組合の職員は、これまで通約40名で、委託先企業の職員が6~7名が派遣。人員は民営化によって増加するので、単なる委託事業であれば、安くなる理由がない。更に、この計画は「大規模改修工事」が費用面でも過半以上を占めた。
柳泉園組合は、この工事を単年契約よりも、一括契約にすれば安くなると説明したが、なぜ大規模改修工事計画を前面に出さず、長期包括委託契約にした理由は不明のまま。
<工事の必要性を調査せずに工事計画>
本件契約予定額である約150億円の過半は大規模改修工事で、ほぼ建て替えに匹敵する基幹部分の取り換えを含む大工事であった。そして原告による情報公開請求の結果、柳泉園組合は工事の必要性の調査を行わずに工事計画を進行していた。
柳泉園組合の現在の焼却炉は、2000年に住友重機械工業株式会社(以下「住重」)が建設。建設時、同組合は耐用年数は30年だと住民に説明していたが、建設から15年経過した時点で大規模改修工事が必要とし、2017年から開始する工事計画を進めていた。本来耐用年数が30年なのに15年経過時点で工事が必要となれば、組合はその責任を住重に問うべきとした。しかし組合は焼却炉の検査・調査すらせず、責任問題も明確にしていない。
なぜこのような事態が起きたのか。原告団の調査の結果、今回の大規模改修工事の入札や契約にかかわった焼却炉メーカーは、すべて住重系列企業であることがわかった。競争入札に応札したのは株式会社住重環境エンジニアリング(以下、エンジニアリング)で、契約締結したのが株式会社住友重機械エンバイロメント(以下、エンバイロメント)で、両社は住重の子会社である。一般的に焼却炉が建設されると、その運転管理やメンテナンスは建設したメーカーの関連会社が担い、発注元とメーカーの間で癒着関係が出来る傾向がある。柳泉園組合では、エンジニアリングが運転管理や定期点検工事を担っていた。大規模改修工事をめぐり焼却炉を建設した企業の系列企業で事業をたらいまわしにする行為は厳しくチェックされるべきである。
<非常識な判決>
柳泉園組合の焼却炉は3炉。毎年定期点検し1炉当たり約1億円をかけて補修整備している。このような定期点検を行っている焼却施設では、例えば東京23区清掃組合の焼却炉の耐用年数は25年から30年である。ところが一審判決では、被告の提出した環境省の説明文を引用し、「稼働後、15年以上を経過すると老朽化が顕著になる。設備の更新を含む延命化対策をしない場合、補償費は増加する」とした上で、大規模改修工事への予算支出をよしとする見解を述べた。本件では、裁判官の非常識な一般論によって、調査もせず工事に入って良しとしたのである。
<官製談合を見逃す判決>
地方自治法上、入札は一般競争入札が基本原則であり、公明正大に進めることとなっていている。そのため本件裁判でも、議会承認や入札審査の手続きが法令に基づき進められたかを裁判所がチェックすれば、官製談合の有無を確認し正しく判断することが可能であった。
ところが、実際には、組合はこの計画を大規模改修工事とはせず「長期包括委託契約」と名付け、組合の事務処理事業を民間企業に委託する契約と合わせ一括して取り扱い、全体として委託契約を装った。その理由は、委託契約であれば巨額の契約でも議会の承認を取ることは法令上必要なくなるからである。建設業法では、規定で大規模改修工事は請負契約として契約することになっている。また1億5000万円以上の請負契約であれば、柳泉園組合の条例上、議会確認事項となる。組合は、長期包括委託契約を装うことで議会のチェックを避けたともいえる。実際に裁判が提起されると、組合が顧問弁護士から指摘を受け、議会に諮らなかったことが落ち度として担当助役などが処分を受け、入札審査から半年後に議会に諮った。本件契約を請負契約に切り替えるのであれば入札からやり直すべきだが、委託契約のままだった。
判決では、「委託契約の中に請負契約的な性質を含むものであっても」「工事内容や工事金額を記載することはない」と示された。
これは明らかに建設業法の定めを逸脱している。また、判決では、大規模改修工事が過半を占める契約を委託契約として取り扱った間違いに触れていない。本来、工事契約と事務委託契約は別の契約として分けて扱う必要があり、もし一つの契約として扱うとすれば、請負契約として取り扱い、委託契約を付け加えるように主従を反対にする必要があった。