青森・岩手県境、産廃不法投棄なお爪痕 地中から新たに24万トン
2010/12/21
ニュース
青森・岩手県境に不法投棄された産業廃棄物問題で、青森県側に埋められた産廃と汚染土壌の推計量が124万5千トンと、従来見込みより24万6千トンも増えた。深く埋められた産廃が新たに見つかったためだ。撤去完了は2012年度から1年先延ばしになり、青森県は国に支援継続を要請した。不法投棄の摘発から10年余り過ぎても、地域に残る爪痕は依然深い。
・荒涼とした風景
青森県田子町と岩手県二戸市にまたがる山あいに、掘り返された穴や盛り土が点在する荒涼とした地域が広がっている。土にはプラスチックなどゴミが交ざり、風が吹くと異臭が鼻をつく。においに誘われるのか、カラスが集まって鳴き騒ぐ。
通称「県境産廃」を重機で撤去する現場だ。青森県の担当者は「川などに汚染が広がらないよう、慎重に作業を進めている」と説明する。
当初は12年度に全量撤去できるはずだった。ところがゴミを取り除いて露出した地面の穴を掘ったところ、その下にも産廃が見つかっため、青森県は今夏、撤去完了が1年延びるとの見通しを公表。地元の田子町民をがっかりさせた。
青森・岩手県境は農山村で、特に田子町は良質なニンニク産地として全国に知られる。汚染を現地で封じ込めているため農産物への被害はほとんどないが、産廃を運び出すダンプが集落を走り抜けるなど住民の心理的負担は今も大きい。
今月7日に青森県が開いた地元説明会で、蝦名武副知事は「全量撤去という方針に揺るぎはない」と強調した。出席した田子町民は「撤去作業は休みなく続けてほしい」と要望した。
青森県側の撤去費用は総計496億円と、従来計画より62億円膨らんだ。県境産廃の撤去は、瀬戸内海の豊島(香川県)などとともに、特定産業廃棄物特別措置法に基づく国の財政支援を受けている。青森県は法律の期限である12年度中の撤去が難しいとして、国に特措法延長を要請中だ。
岩手県側には産廃と汚染土壌が約46万6千トンあり、「12年度で撤去を終えられる見通し」(県産業廃棄物不法投棄緊急特別対策室)という。
産廃撤去の費用は青森・岩手両県で総額700億円を超える。両県は排出元と判明した企業に廃棄物引き取りや処理費の負担を求め、不法投棄業者が残した不動産を差し押さえて競売にかけている。
・税金で経費賄う
10月に化学メーカーのクレハが自社工場から出たとみられる産廃の処分費用3000万円の拠出を申し出たのはごく例外で、経費のほとんどが税金で賄われているのが実態だ。
両県は産廃を取り除いた後、植樹などによる自然再生を検討しているが、実現にはなお多くの時間と費用がかかりそうだ。県境産廃を教訓に、東北の自治体は不法投棄を防ぐ監視を強めている。ただ、ゴミを出す側の都市の廃棄物の減量、再資源化の努力なくして、問題解決は容易ではない。
出典:日本経済新聞