家電リサイクル正念場(下)資源価格変動が翻弄―制度の不安定さ露呈
2008/11/14
ニュース
九月末の経済産業省と環境省の合同審議会で、家電メーカーのリサイクル事業の収支が公表された。公表された二〇〇七年度の家電各社のリサイクル事業に関する収支は軒並み一億―七億円の赤字だった。この数字に反映されていない非公表の利益がある。家電を解体するリサイクル工場の収支や資源売却益だ。
「資源売却益がリサイクル料金にどう反映されているのか見えない」。国立環境研究所の森口祐一循環型社会・廃棄物研究センター長はこう指摘する。
消費者が払う家電リサイクル料金には不透明な部分が多い。料金は使用済み家電から鉄や銅など資源や廃棄物を回収するのに使われる。ただ回収された資源の一部は有価物として転売できる。全体の収支状況は家電メーカーも開示しないブラックボックスだ。家電各社はリサイクル料金について歯切れが悪い。
電機業界は今月からルームエアコン、小型テレビ、小型の冷凍・冷蔵庫のリサイクル料金を一七―三七%引き下げた。理由は「家電メーカーのリサイクル料金引き下げが期待されたから」。〇七年にエアコンの料金が下がった時の「資源価格高騰による採算改善」とは事情が全く異なる。
家電リサイクル法に基づくルートで処理される家電は、廃棄家電の全体の約半分となる年間約千百六十万台。あとは海外などに流れている。リサイクル料金をもらっているのに、メーカーのリサイクル工場に回さなかったことで大手家電量販店の摘発も相次いだ。
こうした現象が起きるのは、家電リサイクルが資源価格の変動という昨今の動きを想定していなかったことにも一因がある。家電は金属資源の塊だ。今夏からの突然の新興国経済の変調と資源価格急落は、リサイクルにも深刻な影を落とす。
家電として使えなくても、資源としての価値はなくならない――。そう信じ、街中を流して家電を集めていた回収業者がビジネス縮小に追い込まれている。
「(海外に売る)業者は朝、突然、メールで価格を下げてきた。余りに頻繁で、もう最近は慣れっこになっちゃったけど」(関東地方の回収業者)。市場の需給を反映し、中古品としての値段は、一日おきに変わる。資源価格下落で収集コストの割が合わなくなれば、昔のように不法投棄がはびこるかもしれない。
一方、リサイクル網を維持する側から見ると「家電の資源性」ばかりが独り歩きするのも困りものだ。
北原国人・全国電機商業組合連合会副会長は「回収業者に売れると知ったお客さんからリサイクル料金なんてもらえない。この制度はまじめにやるほど辛い」と話す。
北原さんは長野県伊那市で家電販売店を経営する。家電リサイクル法の対象となるテレビや冷蔵庫などの製品を買った客からは新品を納入する際に古い家電をリサイクル料金をもらって引き取らなくてはならない。高額な家電を買った客から、さらにお金をもらうのか――。その場で説得できないケースは月二十件に上る。
家電メーカーに責任を負わせ、国内でリサイクルを完結する――。資源市場と海外の需給に翻弄(ほんろう)される現場を見ると、十年前の家電リサイクル法が目指した循環型社会の姿はかすむばかりだ。
出典:日経産業新聞