孤立死せつなく 遺品整理の現場 薄れる絆実感
2014/08/31
ニュース
自室で亡くなった人の身の回りを片付け、大切な物を捜し出す遺品整理の業者が増えている。「孤立死」に周囲が気付くまで長い時間がかかり、遺族らだけでは手に負えないケースが増えているためだ。長年携わってきた業者は、家族関係、地域のつながりの薄れを感じる。
◆死後、数カ月も
五月上旬、買い物帰りの主婦らが通りを行き交う東京都練馬区の住宅街。その一角にあるアパート二階の一室で、一人暮らしの四十代男性が数日前、死亡しているのが見つかった。
室内は異臭がただよい、遺体が見つかった布団は焦げたように黒ずんでいた。「死後、数カ月はたっているでしょうね」。大家から片付けを依頼された業者「遺品整理クリーンサービス」(板橋区)の増田裕次さん(40)がつぶやく。
1DKの部屋は生前のまま、洋服や書類が雑然と散らばっていた。仏壇の位牌(いはい)や通帳といった貴重品をより分け、ごみを次々とビニール袋に放り込む。故人の人柄が偲(しの)ばれる物が出てくることも。切手が貼られていない手紙が見つかった。「丁寧な字。きちょうめんな性格だったのかも」
片付けが進むと、台所や風呂にこびりついた汚れを削り取り、汚れた畳を床からはがす。三時間ほどで、作業は終わった。
遺品は、親族に引き渡す。「こんなものがあったんだ」と感激されることもある一方、半分ぐらいは受け取りを拒否される。親族と関係を絶っている人もいるからだ。今回も、そうだった。
◆「最後の叫び」
七年ほど前から遺品整理を専門に扱うようになった増田さん。依頼の多い夏などは「ほぼ毎日、仕事がある」。福島、新潟県まで出向くこともある。
作業が終わると、玄関先で線香を上げ、手を合わせる。行き場のない遺品は、山形県の寺へと送る。誰にもみとられなかった魂を弔う、せめてもの供養だ。
数え切れないほどの現場と向き合う中、問題だと感じるのは、孤立死が長い間放置されることだ。郵便物がたまるといった兆候に加え、遺体はかなりの異臭を放つ。なのに、住宅街のど真ん中でさえ、たびたび起きる。
病気、家族との死別、失職…。孤立する理由はさまざまだ。「人が死ぬのは自然なこと。孤立死自体は悪いことではない」。増田さんは言う。「ただ、においという『最後の叫び』に気付いてあげないのは、問題だと思う」
◆高額請求トラブルも 届け出義務なく全国1万社
東京都監察医務院によると、東京二十三区で発見まで一カ月(三十一日)以上かかった孤立死は昨年、三百二十三人に上り、十年前の百六十八人からほぼ倍増している。孤立死の増加に伴い、遺品整理を扱う業者は近年、飛躍的に増え、業界団体の「遺品整理士認定協会」(北海道)によると、全国で一万業者を突破したとみられる。
遺品整理をめぐっては、料金などのトラブルも起きており、国民生活センターに相談が寄せられている。関東地方の四十代女性は昨年八月、チラシで知った廃品回収業者に遺品整理を依頼。「いくら出せるか」との問いに「五十万ぐらい」と答えると、五十二万円を請求された。支払い後、親族から「高すぎるのでは」と指摘を受けたという。
取材で同行した増田さんによると、費用は現場の状態や広さによって変わり、相場は「一人暮らしなら、十万~三十万円ぐらい」。だが、実際の請求額はまちまち。業者間で見積額に倍ほどの開きが出た事案もあった。
トラブルの背景には、行政の法整備が整っていない現状がある。作業に伴う物品の売買、一般廃棄物の運搬に許可申請は必要だが、遺品整理を行うための許可や届け出の制度はなく、公的資格もない。増田さんは、経験年数をホームページなどで調べるほか、複数の業者の見積もりを比較するよう勧めている。
出典:東京新聞