バイオ軽油、撤退進む 自治体ごみ収集車更新
2014/08/25
ニュース
使用済み食用油から作ったバイオ軽油をごみ収集車で利用してきた自治体が、撤退する動きをみせている。松本市は昨年からやめており、大町市はことし十月末で利用をやめる。背景には、厳しくなる排ガス規制に対応した新しい車両への更新が進み、バイオ軽油の使用で不具合が出るおそれがあるためだ。廃棄物からエネルギーを生み出すエコサイクルを象徴してきたバイオ軽油をどう維持していくのか、県内外で模索が始まっている。
「はしごを外された感じ」と肩を落とすのは、大町市のNPO地域づくり工房の傘木宏夫代表。傘木さんの手には、市がバイオ軽油使用を十月末でやめると書かれた書面。傘木さんらは二〇〇五年からまず、会員向けにバイオ軽油の精製を開始、〇九年には市と委託契約を結んで精製したバイオ軽油をごみ収集車の燃料として利用してもらってきた。
会員向けも含めて最大年間二万リットルだった生産量は昨年には三千五百リットルに激減した。主な利用先はごみ収集車だが、車両が更新されるごとに使用量が減っていった。十月末にバイオ軽油を使っていた最後の二台も更新される。廃食油の回収は続けられるが、今後は市外の回収業者に引き取られる予定。地域づくり工房でのバイオ軽油生産はストップする。傘木さんは「地域での循環が本来の目的だったが、そうではなくなる」と残念そうに話す。
松本市も一〇年には最大で、六台のごみ収集車に年間一万四千リットル近く使っていたが昨年に使用をやめた。大町市同様に車両の更新が進んだからだ。松本市内の障害者支援施設共立学舎が生産してきたが、市の利用撤退に合わせて生産をやめた。
ディーゼル車両を生産する日野自動車(本社東京都)によると、二〇〇〇年代に入って大都市での排ガス規制の強化がより進んだ。これに対応するため、燃料噴射装置を電子制御にし、排ガスの浄化装置も追加した。こうした新しい車両でバイオ軽油100%の燃料を使った場合に燃料フィルターが詰まったり、浄化装置に不具合が出たりすることがあり、メーカーとして補償ができないのが現状という。
先進的にバイオ軽油に取り組んできた京都市では、環境省の委託でメーカーなどと組み、第二世代というバイオ軽油の実証研究を始めている。新しい車両にも対応する第二世代では水素を使った反応が追加され、生産コストも上がる可能性がある。京都市では百三十六台のごみ収集車と市バス九十二台でバイオ軽油を使用している。
同省地球温暖化対策課は「京都市なら採算は取れるはず。それよりも小規模だとプラントの経費から採算が取れるか疑問はある」という。小さな規模で生産している市民団体が第二世代に対応できるかは不透明なのが現状だ。同課は「全国では、小さな規模でもできるということで取り組んでいただいた。せっかくできた地域のサイクルなのでもったいないことだが、燃料の品質に頼るように現在の車両開発のコンセプトが変わってしまった」と気をもむ。
松本市の浅間温泉の旅館街ではことし六月から、バイオ軽油を5%だけ混ぜた軽油を使った送迎バス十台ほどが動き始めている。5%ならば車両メーカーの補償もあり、性能に問題がないとされるからだ。ただ燃料は県外の事業所からの購入となっている。県内からの調達も検討中だ。
バイオ軽油の普及を進める日本有機資源協会(東京都)の鈴木博主幹は「100%のバイオ軽油でも問題なく走行させているトラックがあると聞くが、何をすれば不具合が出ないのか、データはまだ少ない。5%ならもっと普及するのでは」と指摘する。
バイオ軽油を作る地域の小さなサイクルはこのままなくなっていくのか。大町市では「大変残念だ。将来的に再度利用できる時がくればいいが」と話している。
出典:中日新聞