網を揚げると大量のごみ…瀬戸内・燧灘を船上取材
2011/01/25
環境省
環境省による瀬戸内海の海底ごみの調査(2007年度)で、最もごみが多いとされた県東部の燧灘(ひうちなだ)。この時期に盛んな底引き網漁では、魚に交じり大量のゴミが引き揚げられていると聞き、冬の瀬戸内海に繰り出した。ところが、ひどい船酔いに襲われ過酷な船上取材になってしまった。
19日午前5時半前。今治市伯方島の漁師阿部和明さん(40)の船「大黒丸」(4.7トン)に同乗させてもらい、同島の有津(あろうづ)港を出港。約45分で漁場の四阪島(今治市宮窪町)近くの燧灘へ着くころ、少しずつ空が白んできた。底引き網漁は、水深20~30メートルの海底に網を下ろし、約4.6ノット(時速8.5キロ)のスピードで40分ほど引いて海底付近にいる魚や貝を取る。
網を下ろす間、船は停止する。記者もカメラを取り出し取材の準備に取り掛かった。ところが網を引いて再び船が動き出した直後、船酔いが始まった。
「酔っても夕方まで船を下りられんで」と阿部さんに言われていたのを思い出し我慢するが、気分は最悪。網が揚がるのも待ちきれず、船べりから首を突き出した。
阿部さんが網を揚げながら「酔わん方が珍しいから、しんどかったら船倉で寝ててもええよ。オレも漁を始めて1年半は、吐きながらやってたから」と慰めてくれるが、取材を投げ出す訳にはいかない。揺れる船上で何とかカメラを構えたが、撮っているとまた酔ってくる。結局、写真を撮れたのは午前中まで。午後はひたすら船べりにしがみついていた。記者になって14年目。こんなつらい取材は初めてだった。
■空き缶・鶏卵パック・ビニール…
阿部さんはこの日、10回ほど網を入れたが、網を揚げるたびに大量のゴミも一緒に揚がる。海底の砂をかくために、網には鉄製のツメが付いている。このツメには毎回、ポリ袋の破片が引っかかる。さらに網の中身を船の上に広げると、ワタリガニやヒラメ、シャコに交じって、空き缶やプラスチック製の鶏卵パック、ビニール製の包装などが次々と見付かる。
「ツメにポリ袋が引っかかると、余計な水圧がかかって燃費が悪くなる。網の中のごみが擦れて、魚が傷つくのも問題」という。
底引き網漁を始めて16年。漁を始めたころと比べると「ごみの量自体は少なくなった」らしいが、「自転車やテレビ、ビデオデッキまで引っかかったこともある。大型船の航路近くでよくかかるから、貨物船あたりから捨てられたのかも」と阿部さん。
沿岸の人口が多く、閉ざされた海域に多くの川が流れ込む瀬戸内海は、以前からゴミが問題とされてきた。環境省が2007年度に実施した瀬戸内海の海底ゴミの実態把握調査では、燧灘は1平方キロメートル当たり推計532キロのごみがあるとされ、調査した11海域で一番多かった。大阪湾(大阪府側)と比べても、約2.5倍の数字だ。
こうしたことから、四国中央市の川之江漁協では、約30年前から底引き網漁の漁期が終わる3月末の約1週間、約40隻の底引き網漁船が回収したごみを持ち帰り、業者に頼んで産廃処分場で処分。ここ数年は毎年10トン以上回収している。
■沿岸全域での対策はとられぬまま
だが、対策を取っているのは沿岸の一部の自治体や漁協にとどまる。沿岸全域での抜本的な対策はとられないままなのが実情だ。
瀬戸内海の海底ごみの問題について詳しい柳哲雄九州大教授(沿岸海洋学)は、「瀬戸内海には(岡山と香川の間の)備讃瀬戸を中心に、水深の浅い層は紀伊水道と豊後水道に向かい、深い層は紀伊水道、豊後水道から備讃瀬戸に向かう一定の潮流がある。このため、海底の砂や泥、その上にのったごみは備讃瀬戸東部や燧灘東部に集まりやすい。このことが燧灘の海底にごみが多い一因と考えられる」と説明。
その上で、「そのごみは、河川から入ってくるものが一番多いので、瀬戸内海全域でごみの削減対策をしないと海底ごみは減少しない」と訴える。
出典:asahi.com