発泡スチロール再生を下支え、パナ・ケミカル(技あり中小強さの秘密)
2008/12/26
ニュース
◆溶解装置を販売◆
パナ・ケミカル(東京・杉並)は、発泡スチロールのリサイクル市場を創出した素材商社出身の中小企業。商社ならではの企画力と取引先に対する気配りで市場を開拓し、今では国内シェア八割を握る。会社設立から三十年余りの間にリサイクルした発泡スチロールの累計量は、東京ドーム二百杯分にのぼるという。
◆装置を自社開発◆
パナ・ケミカルのリサイクル事業は、発泡スチロールを熱で溶かす溶解装置が起点になる。
自社開発した溶解装置を市場や百貨店など発泡スチロールを多用する企業・団体に販売。その上で溶解後の発泡スチロールを自ら買い取り、主に海外のリサイクル業者に輸出する。発泡スチロールの原料はポリスチレンなどで、海外の業者にプラスチックに再生してもらう仕組みだ。
犬飼重平社長は「一昔前はビデオテープの黒い外枠の原料になることが多かった」と、発泡スチロールのリサイクル先を説明する。大手電機メーカーの大半にこの原料が採用されていたという。ビデオテープが製品寿命を終えつつある今は、テレビなど別の家電製品に使われることが多い。
国内でパナ・ケミカルの溶解装置をくぐる発泡スチロールは月間三千トン。魚を運ぶ容器として毎月三百トンを排出する東京・築地の中央卸売市場を筆頭に、これまで市場や百貨店など二千カ所に溶解装置を販売した。
◆体積1―50に凝縮◆
パナ・ケミカルが国内トップシェアを握る理由は大きく三つある。一つはゴミの問題だ。
溶解装置で処理された発泡スチロールは体積が五十分の一に凝縮されるため、市場や百貨店は使用済み発泡スチロールの管理スペースに悩まされずに済む。しかもパナ・ケミカルが“ゴミ”を有償で引き取ってくれるため「導入企業の利点は大きい」(犬飼社長)。
二つ目は、溶解装置のブランド戦略だ。装置は処理能力により仕掛けが異なり、一時間に四百キログラムを処理する大型タイプは摩擦熱、同百キログラムの小型タイプは熱風を熱源にする。
主にパナ・ケミカルが開発するが、機械メーカーと提携し装置には相手先のブランドを刻印する。パナ・ケミカルは機械メーカーの総販売代理店との位置づけ。機械メーカーの協力を得て、試作製造拠点を持たない同社が積極的に製品改良に取り組めるようにした。
最後は価格戦略。溶解装置で処理後の発泡スチロールの海外輸出価格は、一キロあたり三十―八十円と時に大きく変動する。仕入れ価格と輸出価格の差がパナ・ケミカルの粗利だが、利幅を原則固定して相場の変動をネタに利益を膨らますような取引は控えてきた。
二〇〇八年二月期の売上高は五十三億円。環境問題に対する社会的意識の高まりを追い風に直近の約十年で倍増した。成長をけん引した三つの特徴について、犬飼社長は「リサイクル市場を確立するために考えた措置」と強調する。
設立は一九七六年。松下電工(パナソニック電工)のプラスチック材料の販売代理店として出発し、二年後には中央卸売市場に一号機を納入した。市場のそばで発泡スチロールを焼却処理して出た黒煙を見た犬飼社長が「再生できるのでは」と考えたのが始まりだった。
圧倒的なシェアを握る同社だが、市場が拡大した昨今は新規参入の脅威も生まれている。実際、世界的な国内電機メーカーが、ミカンに含まれる成分で発泡スチロールを溶かすという、犬飼社長が思いもよらぬ奇抜なアイデアで一時参入してきたことがある。
溶解した発泡スチロールを海外輸出することにしたのは「日本は規制で発泡スチロールのリサイクルが難しい」(犬飼社長)との理由から。もう一段の成長を狙うには、開拓精神をいま一度発揮して、溶解装置の販売先を海外に広げる挑戦が求められる。
出典:日経産業新聞