鉄スクラップ価格暴落、リサイクル業者悲鳴――景気悪化で需要急減
2008/12/08
ニュース
北関東の金属リサイクル業者がスクラップ価格の暴落に苦しんでいる。鉄のスクラップ価格は今年七月の一トンあたり約七万円をピークに値下がりが続き、足もとでは一万円前後と七分の一にまで急落した。価格押し上げの主な要因であった中国など新興国の需要は回復の気配がなく、国内景気の悪化を受けてスクラップをめぐる市場規模そのものが急激に縮小。事業から撤退する業者も出始めた。
「今の価格で収益をあげるのは不可能に近い」。茨城県那珂市の自動車リサイクル業者、「モリカワ」の森川勝行社長は頭を抱える。夏以降、鉄の買い取り業者から送られてくるスクラップ相場は日を追うごとに下降し続け、十一月には一時、〇二年四月以来となる九千円台まで下がった。
「利益出ない」
「価格下落のスピードがあまりにも速く、恐ろしいほどだった」と森川社長は話す。十月一日時点で日産自動車のブルーバードを解体し売却すると約四万六千円になった。それが一カ月後には約一万五千円と三分の一まで下がった。「自動車一台の解体にかかる人件費は約一万円。諸経費を加えると利益はほとんど出ない。今夏以降、市内だけで三、四の同業者が店をたたんだ」という。
スクラップ価格の下落を招いているのは需要の低迷だ。
栃木県内のある非鉄金属リサイクル業者の社長は「今年の夏までは黙っていても『スクラップを売ってくれ』と声がかかってきた」と振り返る。しかし景気後退が鮮明となった十月以降、状況は急変。現在は「こちらから営業をしないと売り先を見つけられない状況だ」と語る。自動車や建機など川下メーカーが減産を相次いで打ち出しており、材料となるスクラップが必要とされなくなっているためだ。買い手のいないスクラップは在庫として積み上がり、経営を圧迫する。
海外向けも不振
リサイクル業者に運ばれてくるスクラップの量そのものも大きく落ち込んでいる。この会社に持ち込まれるスクラップの量は三カ月前と比べて半分ほどに減った。「スクラップは意識して作られるものではない」(リサイクル業社長)
工場新設、車など工業品、建物の解体――。経済活動が活発であればあるほど、「ごみ」であるスクラップは増える。「スクラップの多寡は景気の先行指標の一つ。ごみが出ないということはそれだけ経済活動が停滞していることを表している」と帝国データバンク宇都宮支店の直井明彦支店長は分析する。
スクラップ需要の低迷は海外でも同じ状況だ。小山トレーディングカンパニー(茨城県茨城町)の小山一徳社長は「中東、ロシア向けの輸出がめっきり減ってしまった」と指摘する。中古車やスクラップの輸出を手がける同社は、資源高を背景にした新興国の経済成長に合わせ、輸出を大幅に増やしてきたが、十月になって急転。大幅な前年同月割れになった。「今のところ中東やロシアに代わる輸出先はない。今は耐えるしかない」(小山社長)
リサイクル業者は一様に「今回の景気悪化はこれまで経験してきた不況とはケタが違う」と口をそろえる。スクラップの価格と量の双方が激減する非常事態。ある社長は「現状が劇的に好転しない限り、これからリサイクル業者の廃業が相次ぐだろう」と危惧する。
(水戸支局 湯浅兼輔、宇都宮支局 黒沼晋)
スクラップ価格の暴落は不法投棄車両の増加にもつながりかねない。
スクラップ価格が上昇を続けていた夏前までは、廃車がリサイクル業者に次々と持ち込まれてきた。ただ、最近では「中古車ディーラーなどからの持ち込みが急減している」という。それまでリサイクル業者は持ち込み業者から廃車を買い取っていたが、スクラップ価格の低下で買い取り価格がほぼゼロ水準になり、リサイクルに回すうまみがなくなったためだ。
北関東のある自動車整備業者は「引き取った車はしばらく敷地内に寝かしておく。スクラップ相場の反転を待って売りに出す」と話す。
〇五年に施行された自動車リサイクル法は廃車を一定期間内にリサイクル業者に引き渡すよう定めているが、監督する立場の県は実態調査に手が回らず、事実上野放し状態になっている。業者が廃車をため込むにも限界がある。現状が続けば「スクラップ価格の上昇で姿を消していた不法投棄車両が再び増え始める」(茨城のリサイクル業者)恐れがある。
出典:日本経済新聞