ペットボトルを分解する触媒反応を開発 東京農工大など、プラごみ問題への貢献期待
2022/08/08
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東京農工大学、東京都立大学などの研究グループが、ポリエステルを単量体に戻すことができる触媒反応を開発したと発表した。
メンバーは、東京農工大学工学府応用化学専攻の安倍亮汰さん、同大学院工学研究院応用化学部門の小峰伸之助教、平野雅文教授、その他、東京都立大学などの研究者のグループだ。
ポリエステルとは、プラスチックの素材のひとつ。
ペットボトル、洋服、使い捨て食器、自動車部品などに広く使われている。
使用後のプラごみによる海洋汚染対策は世界的な重要課題だ。
国内ではプラごみのリサイクル率を高める対策が求められている。
今回開発した触媒反応を応用すれば、二酸化炭素を排出する焼却処理をせずにリサイクルが可能だ。
そのため、研究グループはプラごみ問題解決への貢献が期待できるとしている。
現在、世界全体で年間800万トン以上のプラごみが海洋流出している。
2050年には魚の総量を超えるとの予測もあるほどだ。
日本では、1人当たりのプラ容器ごみは米国に次いで多く、プラごみ総量は年間800万トンを超える。
研究グループによると、プラスチックの86%がリサイクルされている。
そのうち、溶かして再利用する「マテリアルリサイクル」は21%。
焼却処理して排熱をエネルギーとして活用する「サーマルリサイクル」は63%だ。
ポリエステルの素材の中でも、ペットボトル用のポリエチレンテレフタレートは強いアルカリ性で分解できるが、分解後には大量の酸で中和する必要がある。
最近では、新しい触媒反応としてリチウムメトキシドという化合物を使った分解方法が報告されているが、大量の添加剤が必要だ。
また、水素ガスや、加水分解酵素を用いた方法もあるが、温度管理や複雑な工程などの条件が必要だ。
そこで、今回の開発研究では、ポリエステルが「エステル構造」とよばれる構造を繰り返している点に着目。
エステル構造とは、水酸基と酸が脱水縮合してできた結合のことだ。
エステル構造を低分子量のアルコールに置き換えられるかどうかを考察。
最終的にポリエステル原料の、有機酸のカルボン酸のメチルエステルとジオールに分解できると考えた。
メチルエステルは軽油とよく似た性質をもち、生物由来のバイオディーゼル燃料として利用される。
ジオールは、炭素に結合している脂肪族で脂環式化合物の総称だ。
実験では、ポリエステルのなかでもよく利用されているポリブチレンスクシネート(PBS)を使用。
ポリブチレンスクシネートは、一般的な生分解性樹脂の中では高い耐熱性があるので、繊維などと相溶性が高いのが特徴だ。
そのポリブチレンスクシネートを使って、候補にあがった触媒をさまざまな条件で検討した。
結果、原子番号57の希土類元素ランタンの錯体が触媒として有効であることを突き止めた。
錯体とは、金属イオンに配位子と呼ばれる分子やイオンが結合したものだ。
有機化合物や無機化合物と異なる性質を持つ金属錯体は、さまざまな応用研究が進んでいる。
この触媒反応では摂氏90度の温度下で、繊維としてよく使われるポリブチレンスクシネートを4時間でポリエステルの原料であるスクシン酸ジメチルと1,4-ブタンジオールに分解できた。
また、この2つの物質を再重合して、メタノールを放出させながらポリエステルに戻すこともできたという。
この触媒反応をペットボトル用のポリエチレンテレフタレートで試すと、摂氏150度の温度下で4時間でテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールに分解できた。
また、市販のペットボトルを使った実証実験でも同一条件で同じように分解することに成功。
ほかにも、家電製品などに利用されているポリブチレンテレフタレート(PBT)もテレフタル酸ジメチルと1,4-ブタンジオールに分解できた。
プラスチックには『縮合反応』と『付加反応』の2つに大別できる。
主に、ポリエステルは縮合反応で合成し、ポリエチレンは付加反応によって合成する。
研究グループは「今回、開発した触媒反応では、安価な触媒と安価な溶媒だけで分解できる」とコメント。
当面は縮合反応で合成されるプラスチック成分のひとつポリエステルの分解の研究を進める。
将来的には分解前のプラスチックよりも価値ある化学物質を作り出す「創造的分解」の開発にも挑戦するという。
この研究は科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業の支援を受けて進めている。
研究論文は6月27日の英王立化学会誌「ケミカル・コミュニケーションズ」電子版に掲載された。