容器包装リサイクル、弘前市の離脱で波紋、「分別、逆に非効率」
2008/06/18
ニュース
ごみ減らず全量焼却に
一つの地方自治体の決断が容器包装リサイクル制度を揺るがせている。青森県弘前市は四月、容器包装に使うプラスチックの分別回収をやめ、全量を焼却処分に転換した。法律が決めたリサイクルの仕組みからの離脱は全国で初めて。細かい分別回収による負担増大に悩む市町村は多い。回収網から離脱する自治体が相次げば、リサイクル制度は抜本的な見直しを迫られる可能性がある。
容器包装プラスチックのリサイクル制度は二〇〇〇年度に始まった。再生利用マークが付いた、食品や日用品などの容器や包装に使うプラスチックが対象で、実施は市町村の判断による。〇六年度の参加率は六八%。実施済みの自治体の離脱はこれまでなかった。
弘前市は年間八千万円程度をかけて二千トンを収集し、選別などリサイクル前に必要な処理をしていた。リサイクルをやめることで、これらの費用負担は減る。ただ、離脱を決意した理由は財政面の事情だけではない。
分別が必ずしもエネルギーや資源の効率利用になっていない――。今年一月、弘前市内の各家庭に配られた市の広報誌は容器包装リサイクルの非効率を厳しい調子でこう断じた。
市は市民の出した容器包装プラスチックごみを収集し、市内の処理場で選別、圧縮していた。その後、ごみは日本容器包装リサイクル協会に引き渡したとみなし、協会が処理を委託したリサイクル事業者にごみを輸送する。リサイクルにかかる費用はメーカーや流通事業者が負担する。
〇七年度は秋田県のリサイクル事業者が引き取り、カバーや配管などによみがえった。だが再利用率はわずか五〇%。残り五〇%は「サーマルリサイクル」と称して、燃料として燃やされた。
過去には北海道や関東地方で燃料にしたこともあった。「燃料に使うなら、市内の焼却設備でもできる」(市民環境部)。市民が分別に手間をかけ、処理場でさらに選別する。大量の燃料を使ってトラックで運び、県外で燃料にする。費用もエネルギーも労力もかかるリサイクルの実態に違和感が募っていった。
「燃やせるごみ」の質の変化も弘前市の方針転換を後押しした。リサイクル開始後、弘前市の二カ所の焼却炉ではごみを燃えやすくするため、石油燃料を使う必要に迫られた。「燃やせるごみ」からプラスチックが消え、燃えにくい生ごみの割合が増えたからだ。〇七年度は三十七キロリットル超の石油燃料を使った。
プラスチックは汚れが残っているとリサイクルできないため、水で洗う。燃やすだけなら、洗う手間は不要だ。リサイクル網から離脱後、一部の市民からは戸惑いの声があったものの、多くの反応は「楽になり良かった」だったという。
弘前市の離脱に環境省リサイクル推進室は「回収に努力している自治体の費用負担を抑える制度変更はしている。離脱は増えない。弘前は特異な例」という。
リサイクル制度の狙いは容器包装ごみの減量だった。メーカーや流通事業者にリサイクル費用を負担させれば、余計な包装を抑制できるはずだった。しかし、弘前市のプラスチックごみは増え続け、〇六年度は〇〇年度比一一%増に達し、人口の増加率(六%)を上回った。全国ベースでもごみは増え続けている。
ごみが減らない限り、分別や輸送などリサイクルにかかる費用もエネルギーも労力も減らない。「リサイクルは非効率」と断じた弘前の例は、本当に特異なのか。メーカーと流通事業者が本気でプラスチックごみの減量に取り組まなければ、第二、第三の弘前市が出る可能性はある。
出典:日経産業新聞